ミラーニューロン/「犬から目をはなすな」は、どこまで本当か。
2008年2月27日(水)/記
 ミラーニューロンは、2002年にイタリアの神経生理学者グループのサルを使った実験で発見され、目で見た誰かの仕草にミラー(鏡)のように、同じような反応をする神経細胞のことだそう。昔ながらの職人などの世界には、下積みの時代があり、なかなか実際にやらせてもらえない。毎日掃除ばかりの日が続いたりするので、不満たらたらだったりします。が、この修行時代は自分は手を出さないので失敗することもなく、達人の技を目に焼き付けている期間ということになります。何らかの動作を見ている側の脳内で、その動作に関連するるニューロンが活性化します。脳内のミラーニューロンに、その身体操作が転写されるので、眺めているだけで、相手の身体の一部が自分の身体のように感じられるようになるので、同じ動作ができるようになるらしいのです。昔の人は生活の知恵としてそうしたことを知っていたので、マイナスのイメージとなる失敗を繰り返させることなく、職人を育てていたのかも知れません。
 こうした脳の記事には犬にもミラーニューロンがあるとはされていませんが、犬は飼い主に似るなどという話もありますから、犬にも似たような神経細胞はあるのではないかと思います。ただし、犬にはサルや人のような手はありませんから、こうした科学的な事実をアジリティーのハンドリングに応用しようとする場合に、ハンドシグナルには注意が必要かと思われます。人の子どもは指を差して、意思の伝達行動を起こすようになりますが、犬は人が指で対象物を差しても、その意味を人の子どものようには理解しないそう。そこで服従訓練競技会で、指示した方向の障害をジャンプさせるために「犬語の話し方」(文春文庫/スタンレー・コレン著/木村博江訳/定価:本体705円+税)の著者が自分の犬で試したところ、いうまでもないことかも知れませんが、何も教えなくともハンドラーの身体で指示する方向は読み取れたそうですが、目での合図は人の顔は犬の顔の用に尖っていなかったりするので、読み取れなかったそうです。
 人間でも指で差す行動は学習することが必要で、親子が指を差して意思を伝えあうことで、子どもは指で差すことの意味を学んでいくそう。で、犬の場合も教えていけば、ハンドシグナルに反応するようになる。狼は群れで狩りをするときに獲物の方向を仲間に教えるときに頭をその方向に向け、指による指示と同じ事をしているという事なので、人の身体と頭で示す事は自然に理解できるが、人の指さし行動は訓練が必要となる・・・というようなことが、書いてあったりします。
 アジリティーのハンドリングでは、よくボディーランゲージが強調され、ハンドラーの足の向きや身体の向きをインストラクターから注意されたりするので、ハンドラーは身体や足の動きなどには気配りしていますが、反面腕の動きは結構疎かになっていたりします。前述のように犬は手の指示を自然には理解しないので、アジリティーのトレーニングとしては、手や腕の位置などを意識したハンドシグナルによる練習も、方向性や距離間を考慮したより精度の高いハンドリングには必要かと思われるのです。
 大リーグで活躍しているイチロー選手は、どんな状況でもエラーをしないために意識的にボールを見ないでボールをキャッチする練習をしているそうです。こうした工夫が背走しながらも、振り向きざまボールをキャッチできるパフォーマンスに繋がっているようです。野球やサッカーなどでもボールから目を離すなと教えられるし、アジリティーでも通常は犬から目を離さないように教えられます。しかし、難度の高いコースで犬から目を離さないで、ハンドリングする事はどこまで可能でしょうか。トラップが2つも3つもあるときに、犬から目を離さないでその場面の障害配置を走りながらイメージすることは、どこまで可能でしょうか。ラインコントロールの面からも、ハンドラーは犬から目をそらさないことに注意を払うよりも、目的の障害を見つめて、ボディーランゲージと一緒に、ハンドラーのそのイメージを犬に伝えるようにした方が、ハンドリングでは有用ではないでしょうか。もちろん、念を伝えるには、そうしたトレーニングも必要であり、個人差もありますが・・・。
 ミラーニューロンの働きが活性化し、犬とハンドラーの身体的コミュニケーションが理想的な境地に達すると、いわゆる「パワー・オブ・フロー」の状態に入っていると考えられ、犬とハンドラーの身体は共鳴した状態になっているので、高い次元のハンドリングでは犬から目を離さないことに注意を払うよりも、目的の障害を見つめる方が、アニマルコミュニケーション的な発想からしても、アジリティーハンドリングとしては、より有効ではないかと考えられるのです。(参考:「合気道とラグビーを貫くもの」朝日新書/内田 樹・平尾 剛共著/定価:本体720円+税)